HHKBと私(とHHKB Studioを使用した感想)

はじめに

通好みとして知られるキーボード、HHKB(Happy Hacking Keyboard)の新たなシリーズとして、「HHKB Studio」が、2023年11月に発売されました。

職業プログラマである私としては当然に興味がありましたし、元からHHKB Professional HYBRIDを使用していたため、当然のごとく購入。

当初は入手困難、品切れ、公式サイト価格を上回る転売があり混乱していましたが、それもずいぶん落ち着いたので、2024年に入ってから”Studio”を2台購入して、仕事場とプライベートで使用していました。

3か月ほど使用して、感想を記したいと思います。

見た目の比較

まずは、比較画像。

上が”Studio”、下が”Professional HYBRID”

スペックの比較

続いて、両機種のスペック比較。

HHKB Professional HYBRIDHHKB Studio
キー配列JIS配列69キーJIS配列69キー
打鍵音カチャカチャスコスコ
打鍵感少しグラグラグラグラしない
キースイッチと耐用年数静電容量無接点方式(実質永久)メカニカルスイッチ式(5年を想定)
重量550g830g
ポインティングデバイスなし内蔵(ポインティングスティック)
ジェスチャーパッドなしあり(4か所)
使用電池単3型2本単3型4本
パームレストあるとよいあるとよいがジェスチャーパッドと干渉
キーカスタマイズ可能(ディップスイッチ+ソフト)可能(ディップスイッチ+ソフト)
カラバリあり(白・墨)なし(墨)
接続方式USB(有線) + Bluetooth(4台まで)USB(有線) + Bluetooth(4台まで)
電源スイッチボタンスライドスイッチ
HHKB Professional HYBRIDと
HHKB Studioの比較

ネットで検索するとStudioをほめる記事が多数出てくる。私もHHKBの正常進化としてのStudioを認めるけど、少し残念なところも正直ある。

両モデルを使用した正直な感想

打鍵音と打鍵感

Professionalまでの静電容量式キーボードでは、カチャカチャという心地よい打鍵音と、少し遊びのある打鍵感だった。Studioのそれは、打鍵音はほぼなく「スコスコ」という感じの打鍵音・打鍵感で、ほぼ無音。どちらが良いかは意見が分かれるところだとは思います。

キースイッチの違い

Professionalまでは、静電容量無接点方式というスイッチを用いていた。この方式のスイッチは名の通り接点がなく、接点が摩耗しない。公式サイトでも「一生使える」くらいの書かれ方で紹介されていたが、この方式のスイッチゆえだろう。

Studioのそれは、メカニカルスイッチを用いている。メカニカルキーボードというと、打鍵のたびにカチカチ鳴る印象があると思うけど、Studioのそれは極めて静か。メカニカル式と言われなかったら、まず気づかないだろう。

私個人としては、Studioの打鍵音・打鍵感のほうが、どちらかと言えば好み。しかし、キースイッチの違いにより、メーカーが「公式耐用年数5年」と言い始めたのが気になる。

重量の違い

Professionalの550gに対して、Sttudioは830g。約300gの増量。使用する上での安定感は、間違いなくStudioが優れている。ただ、外付けキーボードとして使う以上、デスク上でPCを使用しないときや、紙の資料をキーボードの手前に置く場合、キーボードを奥に追いやってスペースを空けることがあると思う。

Professionalは手を添えて奥に押せば、スーッと追いやれる。しかし、Studioは重量ゆえに奥に追いやるには少し重い。あと、Studioは後述する「ジェスチャーパッド」のセンサーがキーボード本体の手前左右と左右側面に内蔵されている。キーボードの位置を変える場合、電源スイッチが入ったまま持ち上げたり押したりすると、ジェスチャーパッドが動作してしまう。

ポインティングデバイスとジェスチャーパッド

マウスとトラックボール

私は従来、外付けキーボード(主にHHKB Professional)と、Logicoolのトラックボールを愛用している。PCを使用し始めて30年以上が経つ。最初こそ、付属マウスを使用していたが、マウスの難点は、使うたびにキーボードから右手を離さねばならないことと、使うたびにマウスを探して手を添える必要があること、マウスを使用するにはそれなりのスペースが必要なことが難点だ。

トラックボールだと、それが解消された。キーボードを右側の定位置にトラックボールを置けば、デバイスを探す手間と、スペースを要することはなくなる。マウスの難点である「キーボードから手を離す必要がある」は解消されないけれど、所定の位置にトラックボールが固定されていれば、探す手間はないし、見なくても操作できる。

PC作業中心で仕事をしていると、キーボードやマウスの多用で手首を痛めている人が多い。一日中使用するデバイスである以上、ちゃっちいのは使っていられないのは明白である。

ポインティングスティック

話がそれた。

Professionalを使用する場合は、別途マウスなり、トラックボールなりのポインティングデバイスが必要となる。

Studioは、ポインティングスティックを内蔵している。LenovoのThinkPadシリーズのキーボードの中心にある赤いぽっちのアレである。アレがStudioのキーボードの中心に内蔵されている。Stuidioのそれは、黒いぽっちだが、交換部品で赤のぽっちに交換すれば赤くなる。キーの手前に、左右のクリックボタンと、ホイール(っていうんだっけ?)代わりの真ん中ボタンも用意されている。

テキスト入力が用途の中心となる、ライターや編集者、プログラマなどは、キーボードを使用している割合が断然多い。なので、別途マウスやトラックボールを用意しなくてもいい、というのはプラスだと思う。

逆を言うと、ポインティングデバイスを多用するユーザにとっては、ポインティングスティックのうまみはあまりないかもしれない。なれればポインティングスティックでも細かなGUI操作はできるかもしれないけれど、それを習得するのと、マウスやトラックボールを使用するのと、どちらが良いか、という話になるだろう。

先に書いた「ポインティングデバイスを使うには、キーボードから手を離す必要がある」という難点も、キーボードにポインティングスティックと左右ボタンが内蔵されたら解決する。

ジェスチャーパッド

ジェスチャーパッドと聞いても、想像がつかないと思う。何に使用するのか、どうなっているのか。詳細説明はHHKB Studioの公式サイトを見てもらったほうが早いと思う。

で、わたしとしてはこの「ジェスチャーパッド」を現状持て余している。持て余しているだけならよいけれど、正直、カスタマイズアプリで無効化したいくらいである。

ジェスチャーパッドはキーボードの手前側面と両側側面に内蔵されている、タッチセンサーデバイスだ。これを上下や左右にタッチしてさすることで、テキストがスクロールしたり、アプリケーションの切り替えができる(標準設定の場合)。

キーボードを使用しないときにキーボードを持ち上げてどけたり、奥に追いやろうとして本体に手を添えると、このジェスチャーパッドが反応してしまう。Studioの電源スイッチ、Professionalの「ボタン長押し」から「スライドスイッチ」に変更されたのは、おそらくジェスチャーパッドの誤動作防止のために電源を頻繁に入り切りさせたいためだろう。

キーボードのオプション品として、キーの高さに合わせた厚みのある板「パームレスト」というものがある。パームレストを使うと、キーボードをたたくときに手首を浮かせなくてもよいので、楽なのだ。ただ、Stuidioの手前にパームレストを置くと、当然ながら、手前側面のジェスチャーパッドが隠れてしまうのだ。

ジェスチャーパッドはあってもいい機能だけど、なくてもいい人もいるし、用途によっては却って妨げになることもあるだろう。私の場合は、この機能を切っている。だって、スクロールもアプリ切り替えも、キーボードをたたいたほうが早いのだもの。

カラーバリエーション

Professionalのカラーバリエーションは、墨(黒)と白がある。Studioのそれは、発売から日が経っていないことからか、今のところ墨(黒)だけである。

写真や公式サイトを見てもらえばわかるが、「墨」は黒いキートップに黒で文字が印字してある。見づらいことこの上ない。入力に没入してしまえばタッチタイプをするので、キートップの印字など見ないので良いのだけど、自分はまだ未熟なのか、キーボードの印字がない・見えにくい状態ではつらい。

カラーバリエーションが「墨」一択であるがゆえに、Studioを買い控えている人がいるかもしれないと考えると、もったいない話だと思うが、どうなのだろう。

さいごに

私のStudioに対する感想

上記をを踏まえて、私のStudioに対する感想・希望は下記である。

  • カラーバリエーションが墨一択なのは残念過ぎる。白色キートップ or 白色モデル希望。
  • ジェスチャーパッドの使用例・活用方法が謎(いらないのでは)。
  • ポインティングスティックは歓迎。
  • メカニカルキースイッチの採用に際しては熟慮が感じられるが、やはりメカニカルスイッチ化により、キーボードの耐用年数がメーカーから示されたのは残念。

HHKBは今後も私の大切な道具

HHKBは決して安い買い物ではない。むしろ、キーボードに4万円もかけるなんてどうかしている域だと思う。Professionalも3万円を超えるので、Studio固有の問題でもない。HHKB自体が高いのである。

それでもHHKBが売れるのは、固定客がいるのは、やはり便利に長く使える入力デバイスだから、という高付加価値からだろう。

今後、Studioを含めてHHKBがどう進化していくかはわからないが、今後も私は、HHKBを大切な道具として使用していくだろう。

HHKBの思想

HHKBの公式サイトに、下記の一文がある。

アメリカ⻄部のカウボーイたちは、馬が死ぬと馬はそこに残していくが、どんなに砂漠を歩こうとも、鞍は自分で担いで往く。

馬は消耗品であり、鞍は自分の体に馴染んだインタフェースだからだ。

いまやパソコンは消耗品であり、キーボードは大切な、生涯使えるインタフェースであることを忘れてはいけない。

東京大学 名誉教授 和田英一

HHKBが、これからも生涯使える「インターフェイス」であり続けることを願いたい。