会社と戦う

不当解雇や退職強要、セクハラパワハラによって退職を余儀なくされるなど、労働トラブルは意外と多いです。

そんな時、私は泣き寝入りせずに会社と戦うことにしています。単純に悔しい、というのもありますが、そのような会社に一矢報いを入れないと気が済まないという正義感みたいなものもあったりします。

ここでは、会社と戦う上で利用できる機関や制度、個人でもできる反撃などをご紹介します。

各種制度を利用する


労働局(総合労働相談コーナー)関連

労働相談・情報提供

労働基準監督署などに併設されている、労働相談コーナーです。抱えている問題に応じて、労基署としてできることがないか確認してくれたり、各種制度の紹介をしてくれたりします。次に書いてある助言・指導、あっせんの申し出もこの窓口になります。

都道府県労働局長による助言・指導紛争調整委員会によるあっせん

労働条件や労働関係における下記の個別労働紛争が対象です。個別労働紛争とは、事業主と労働者の間の労働紛争であり、事業主と組合、労働者同士の紛争は対象外です。

  • 解雇、雇止め、労働条件の不利益変更などの労働条件に関する紛争
  • いじめ・嫌がらせなどの職場環境に関する紛争
  • 退職に伴う研修費用の返還、営業車など会社所有物の破損についての損害賠償をめぐる紛争
  • 会社分割による労働契約の承継、同業他社への就業禁止など労働契約に関する紛争
  • 募集・採用に関する紛争(※助言・指導の対象にはなりますが、あっせんの対象にはなりません。)

他の法律で紛争解決が制度化されている紛争や、裁判等で係争中、もしくは判決が出ているなど、すでに他の制度で取り扱われている紛争、労働組合と事業主の間で交渉中の事項などは、この制度の対象とはなりません。

労働局長による助言・指導

抱えている問題のうち、労働法上問題のある、問題となる恐れのある事項について、事業主(会社)に労働局長名で助言・指導を行ってくれます。利用は無料です。

窓口で申告すれば、労働局長名にて、事業主に対して電話や書面にて助言や指導を行います。助言・指導で問題が解決すれば、紛争は解決です。

解決しない場合は、次に書くあっせん(調停)や他の紛争解決制度の利用を紹介されます。

あっせん(調停)

労働局の調停制度です。紛争当事者(事業主と労働者)の間に公平・中立な立場の第三者(調停委員)が入り、双方の主張を聞き、調整を行います。これにより話し合いを進め、紛争の解決を図るものです。利用は無料です。下記のような特徴があります。

  • 裁判に比べ手続きが迅速かつ簡便
  • 弁護士、大学教授、社会保険労務士などの労働問題の専門家である紛争調整委員が担当
  • あっせんの手続きは非公開であり、紛争当事者のプライバシ―は保護される
前提

あっせんを利用する場合、事業主と労働者の間で労働紛争が起きていることが前提となります。

例えば、ハラスメント問題であれば、労働者側から事業主に対して、問題解決を求める文書を送付し、それを事業主が拒んだ、もしくは回答がない場合などに「労働紛争が起きている」とみなされます。

「上司がパワハラをしてくるのがけしからんのであっせんを起こす」と言ったところで、労働局は「まずご自分で会社に改善を求めてください。それで解決しなければ、あっせんの利用は可能です」と答えてきます。ちょっと解せませんが「裁判」ではなく「紛争解決」の制度なので、仕方ないところでしょう。

申請

あっせんの利用をするには、都道府県労働局や最寄りの総合労働相談コーナーにあっせん申請書を提出する必要があります。書式は厚生労働省のWebサイトにWordやPDFがあるほか、申請窓口で直接手書きすることでも申請できます。

申請をすると、紛争番号が採番され、申請書に収受印が押されます。職員によって、収受印を押したもののコピーを交付してくれない方もいますが、後々必要になるかもしれませんので、ぜひ収受印のある写しの交付を受けることをお勧めします。

注意としては、労働局にも管轄があることです。例えば愛知県内の事業場での紛争は、愛知労働局が管轄となります。ただし、事業主がすでに愛知県の事業場を閉鎖してしまった、などの場合は、残っている他の事業場(多くの場合、会社所在地)の労働局が管轄となります。

筆者の場合も、事業主が愛知県の拠点を閉鎖してしまった(事業売却して閉鎖した)ので、会社所在地の東京労働局が管轄だ、と言われてしまった経験があります。その場合は、管轄の労働局のあっせんを利用するか、他の制度を利用することとなります。

後述する社会保険労務士会の「あっせん」(紛争解決ADR)の場合は、管轄の概念がないため、地元で申請することができましたので、参考までに書き添えます。

紛争調整委員会へあっせんを委任

あっせん申請書を提出すると、都道府県労働局長が紛争調整委員会にあっせんを委任します。

労働紛争委員会はまず、事業主・労働者に対して「あっせん開始通知」を送付するとともに、あっせんを提起された側(相手方。多くの場合事業主ですが)に対して、あっせんへの参加意思確認が行われます。

相手方が参加となれば、あっせんの実施日時・場所が決まり、事業主・労働者に対してあっせん期日の通知が送付されます。もしここで相手方が不参加の意思表明をした場合は、あっせんを実施せず打ち切りとなり、他の紛争解決制度を紹介されます。

あっせん当日

紛争解決委員会から指定された日時に、指定場所へ赴きます。事業主側の部屋と労働者の部屋が別々に用意してあり、そこにそれぞれが通されます。互いの主張は紛争解決委員会のあっせん委員があっせん室にて個別に聞き取り、調整を行いますので、あっせんの場において、事業主と労働者が対面することはありません。

あっせん委員が労働者と事業主から交代で話を聞き、調整を行います。そこで和解案がまとまったら、事業主用と労働者用の2枚の合意書に双方署名の上、あっせん成立となります。

解決に際して金銭授受(解決金支払)が伴う場合は、後日指定口座に解決金が着金したことを紛争解決委員会に書面で報告し、あっせんは終了となります。

双方の主張が乖離していて話し合いが成り立たない場合などは、あっせん委員によって、あっせん不成立の決定がなされます。その場合、他の紛争解決制度を紹介されます。

紛争解決委員会のあっせんは、原則1回のみ行われます。1回で紛争が解決しない場合は、あっせん不成立となります。


都道府県関係

労働委員会「あっせん」

都道府県の労働委員会による調停制度(あっせん)です。労働局のあっせん同様、労働問題の専門家が紛争解決に向けた調整を行います。利用は無料です。

非公開で行われる点、事業主、労働者どちらからも申請できることも、労働局あっせんと同様です。

各都道府県により、あっせんの開かれる回数が異なるようですので、詳細は都道府県のWebサイトを参照してください。


裁判所関係

民事調停手続【簡易裁判所】

調停という意味では、労働局のあっせんや都道府県労働委員会のあっせんと同様です。利用は有料で、請求する金額に応じた金額を収入印紙で納付します。

ただし、非公開で行われることは同じですが、違いは同じテーブルに調停主任・調停委員・申立人・相手方が同席する点です。つまり、事業主と労働者が相対することとなります。

調停は幾度か行われますが、当事者のいずれかが調停に応じない場合、合意に至らない場合は、調停手続の中止がされます。

少額訴訟手続【簡易裁判所】

少額訴訟手続は、原則として1回の審理で判決がされる特別な訴訟手続で、60万円以下の金銭の支払いを求める場合にのみ利用可能な手続きです。

利用は有料で、請求する金額に応じた金額を収入印紙で納付します。

比較的単純な事案の解決に有用な手続きです。

金銭要求ではなく、〇〇してほしい(例:復職させてほしい)というような要求をする場合は、訴額が160万円として取り扱われるので、この手続きは利用できません。

労働審判手続【地方裁判所】

労働審判手続は、原則として3回以内の期日で話し合いによる解決(和解)を試みながら、話し合いが成立しない場合は「審判」(民事訴訟における判決に相当)が下される手続です。利用は有料で、請求する金額に応じた金額を収入印紙で納付します。

訴訟同様に権利関係を明らかにする手続きのため、事前に証拠を準備したり、予想される争点を洗い出して主張を的確に行う必要があります。

あっせんや調停が、和解を見据えた話し合いの場であることと比べ、労働審判は証拠に基づく事実関係を争う場となります。

なお、当事者が審判に不服である場合、もしくは事案が複雑で労働審判手続が適当でないと裁判所が判断した場合は、民事訴訟手続に移行します。


社会保険労務士会

労働相談

社会保険労務士会でも、労働相談を行っています。役所ではないため、割とざっくばらんにかつ、難しい案件でも相談に乗ってもらえた印象があります。

あっせん(紛争解決ADR)

前述した労働局あっせん、労働委員会あっせんとは別に、社会保険労務士会も「あっせん」(紛争解決ADR)を行っています。管轄の概念がないため、事業所閉鎖などで労働局あっせんの管轄が遠方になってしまう場合でも、地元社会保険労務士会であっせん申請することができます。費用は社会保険労務士会により異なるようです。地元社労士会のWebサイトにて確認してください。


個人で戦う

ここまで、公的機関や民間の紛争解決手段を紹介してきました。しかし、これらを用いずとも、紛争が解決する場合もあります。

個人で事業主と直接戦うといっても、根本解決から、法を盾にした権利の主張でうさを晴らすような方法で自分を諫めるといったことまであるでしょう。

例えば、会社でパワハラ・セクハラなどのハラスメント被害を受けた場合でも、事実関係を人事や社内のハラスメント相談窓口に相談して解決すれば、それに越したことはないでしょう。もっとも、それで解決するような会社なら、そもそも労働トラブルなど起きないと思いますが・・・

退職を余儀なくされる、退職を余儀なくされた場合などで、前述したような解決制度の利用までは求めないとしても、会社に一矢報いてやりたい、という場合もあるでしょう。

会社に対するプチ嫌がらせ

法律や権利を用いて、自分が不利にならないようにし、かつ会社に迷惑をかけることができる方法を紹介します。

有給休暇の消化

有給休暇は労働者の権利です。残っている有給休暇は、すべて使ってから退職しましょう。有給付与日が迫っている場合は、その日まで在籍して、新たに付与された有休も含めて消化して退職するのもありです。

私は有給付与日直前に「今すぐやめてもらって結構」と言われましたが、有給付与日が迫っていたため、そこまで在籍して、新たに付与された有給休暇をすべて行使してから退職しました。権利だから、当然行使しますよね。

ボーナス支給後に退職する

ボーナスとはあまり縁がない働き方をしてきたので、あまり詳しくないですが、ボーナス支給日以後に退職表明して退職するのも手でしょう。

金品の返還請求をする

労働基準法第23条に基づいて、賃金の早期回収を図ることができます。

第23条 使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があった場合においては、7日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。

労働基準法(昭和 22 年法律第 49 号)

上記を根拠にして、給与締日・支給日を待たずに、早期に給与を回収することができます。上記条文を引用した請求書面を作成し、事業主に送付すればOKです。送付方法は書留や内容証明のほうがよいかもしれません。

私の時は、会社にメールで送付したのち、原本を会社に郵送しました。そうしたところ、請求から3日ほどで給与が入金されました。

賃金計算の誤りを指摘する

給与計算方法が複雑かつ分かりにくい、特に金額固定の手当で総支給額を上増ししているようなどんぶり勘定の会社や、創立間もない会社(ベンチャー)などであれば、給与計算方法自体が労働基準法違反である場合もあるでしょう。

私のケースですが、ベンチャー企業に入社して、代表者から自己都合退職を強要された経験があります。ハローワークあてに提出するの再就職手当申請書には「基本給18万円」と書いてあった(しかも、一度19万円と書いたものを、無理やり18万円に書き直してあった)のに、入社後しばらくして交付された労働条件明示書では「基本給17万円」になっていたりと、そもそもがめちゃくちゃでした。

前記「金品の返還要求」をした際には、当然基本給18万円で請求しました。

給与振込口座も会社指定金融機関の会社指定支店を強要された(金融機関を会社が指定するのはNG)ので、給与が着金する前に口座閉鎖し、自分のメインバンクの口座を指定しました。

請求に基づいて、すぐに給与は支払われました。しかし、支給計算時も控除計算もめちゃくちゃで、正しい計算ができていませんでした。

支給に関しては、残業代単価に固定支給の手当が含まれていませんでした。通勤交通費や住宅手当が、実費精算でなく固定額の支給の場合は、これらも基本給(賃金単価)に含めなければなりません。

控除に関しては、本来よりも多い健保の保険料が控除されていました。

これを指摘して、給与の追加請求を行い、237円を手にしました。金額の問題ではなく、会社にいかに迷惑(面倒)をかけるか、が目的だったので、目的は達成されたといえるでしょう。

支給計算の誤りを指摘しましたが、その後他の社員の支給額を是正したかどうかはわかりません、が・・・

ハローワークに離職理由を照会してもらう

会社を退職すると、多くの方が雇用保険の失業手当を受給するでしょう。

自己都合退職の場合は、支給開始までに3か月の待期期間があります。しかしながら、会社都合退職や、やむを得ない事由での自己都合退職なら、待期期間も短くなります。

離職票-2の「離職理由欄等」の欄には、自分の思う事情を正直に書きましょう。また、会社が書いた離職理由等に納得がいかない場合は、まずは会社に訂正を求めるのもいいかもしれません。

離職票-2の「離職理由欄等」の欄に、会社が「『自己都合』と書いて押印」と指示・強要してくることがあります。これに応じて「自己都合退職」と書いたが最後、ハローワークでは離職理由は覆ることはありません。もっとも、雇用保険手続きが電子化された現在、離職票はPDF(電子ファイル)で交付されるようになりました。離職理由欄は空白でもハローワークに受理されることが多いようですので、このようなことは減ると思いますが。

離職理由によって待期期間の有無や受給期間に違いが出るので、ハローワークの窓口では、会社の言う離職理由に異議がある、旨を主張してください。そして、自分が主張する離職理由とその事情を子細に話してください。例えば、病気で仕事を辞めざるを得なかったとか、直近の残業時間が多かった、などです。

残念ながら、ハローワークの雇用保険担当は、単なる「失業給付事務マシン」と化しているので、なかなか離職理由の相違や異議申し立てに腰が重いと思いますが、粘り強く交渉しましょう。担当者によっては「どうせ問い合わせたって、会社は離職理由を変えるなんてことはない。無駄だからやめておけ」などと、とんでもないことを言うこともあります。

窓口が言うことを聞かない場合は、離職票の手続きをいったん取り下げて、労働局の職業安定部職業安定課の雇用保険担当に連絡をして、ハローワークが離職理由を調査しない、と告げましょう。

ハローワークから事業主に問い合わせ(照会)がいくことにより、事業主に面倒をかけることができます。

なお、ハローワークでは「離職理由」とは別に「資格喪失事由」も調査することになっているそうです。特定理由離職者を多数出したり、資格喪失事由が不適切な離職者(資格喪失者)を多数出した場合、労働局から事業主に支払われている助成金が減額されたり、差し止められたり、というペナルティも待っているそうです。

それも知らず、ハローワークの給付課は給付マシンとして機械的にしか離職者を処理しません。離職者が最初に必ず訪れるハローワークの給付課窓口がこんな風では、労働者の権利が守られるとは思えません。