「労基」に期待していいこと、いけないこと

労働基準監督署(ろうどうきじゅんかんとくしょ)の仕事は、各種労働法規に基づいて監督、取り締まりを行うことです。「所」ではなく「署」なのが、それを物語っています。

労基の動きやすい事案

明確な法違反、わかりやすい例で言うと、建設現場、林業、工場、港湾などの特殊な法律がある現場における法違反についてフットワークが軽い印象です。

たとえば、建設現場での高所作業用の足場の寸法が法違反だから取り締まる、とか、有機溶剤の使用をする工事現場で安全措置が十分とられていないから取り締まる、などです。

逆に言うと、第3次産業(サービス業)に関しては、特別な法律など特にありませんので、明確に法違反が立証できる案件、たとえば賃金未払い、サービス残業、給与計算方法誤りによる未支給などについては、比較的積極的に取り組んでくれます。

しかし、これら法違反事案ですら、話を聞くだけで「大変でしたね」と言ってすまそうとする職員がいます。明確に「申告します」と言わないと、動いてくれないことも多いです。そして、申告しても「まずはあなたが会社に自力で請求・指摘してください。それで会社が動かなければ労基が動きます」という姿勢です。

労基の腰が重い事案(動かない事案)

では、他の法違反がグレーな事案や、法違反ではないが労働現場で起きた事件、例えば離職理由に納得がいかない、パワハラ・セクハラがあった、障害者差別でやめた、過労でうつ病になった、などの事案についてはどうかというと、民事不介入で動きません。話は聞いてくれますが、聞くだけです。

親切な職員さんなら、労働局長名での助言、指導、労働局主催のあっせん(調停)制度をはじめとする「個別労働紛争解決制度」を案内してくれるかもしれません。しかし、この場合も労基職員は書類の書き方や制度の利用方法をアドバイスしてくれるだけで、制度を使うかどうか、何を求めるか、何がどうなったら自分の気持ちを納得させるか、などは、労働者自身で決めるしかないのです。

私の労基体験

私自身、新卒会社にて労働者派遣業における7重派遣、過重プレッシャーやハラスメントに起因する精神疾患発症、月間427.5時間に及ぶ長時間労働を申告しましたが、「大変でしたね」「お気の毒でしたね」と憐れむ言葉はかけてくれども、労基はピクリとも動きませんでした。

いまでこそ、労働局の各種紛争解決手段を教えてくれたり、勧めてくれたりしますが、私の当時は「これ以上話さないで!何もできないから!帰ってください!」と言って、実際に耳を手で塞いで事務室に帰ってしまった相談員もいました。

結論:労基は頼るところではなく使うところ

多くの人が従事している第3次産業において、労基はほとんど無力です。賃金(労働債権)の未払い請求など、明確に法違反が認められる場合のみ、「頼って」もいいでしょう。

それ以外の場合は、労基のできること、できないこと、労基/労働局/裁判所などの制度を利用して、自力で解決するしかないです。