マイナンバー保険証ついて・・・自治体SEを経験した障害者の立場から
日本は国民皆保険の国
国民皆保険制度は日本が誇る福祉制度だ、と時々耳にされる方がおられるかもしれません。 国民皆保険制度って何かというと、
国民皆保険制度とは、全ての人が公的医療保険に加入し、全員が保険料を支払うことでお互いの負担を軽減する制度のことを指します。 そのため持病があって通院回数が多い人でも、入院や手術により医療費が高くなってしまう人でも、定められた負担割合で医療を受けることができるのです。
日本に住むすべての人が、国民皆保険制度のもとに、どこかしらの健保に加入しており、広く平等に、かつ安価で医療が受けられます。受診する医療機関も加入者が自由に選べます(一部公的医療扶助制度を除く/障碍者自立支援制度の精神通院制度など)。
マイナ保険証の課題
マイナ保険証の任意性
マイナンバーカードの取得は国民個人の判断にゆだねられており、義務ではありません。 マイナ保険証を希望する場合は、加入する健保に申し出て、健保のデータ(保険者番号・記号・番号・枝番)をマイナンバーシステムに連携してもらいます。 この申請は、あくまで本人の申請に基づくものです。
マイナ保険証と健康保険の紐づけの問題
また、就職・転職・離職・離職後の任意継続・無職者の国民健康保険加入・高齢者の後期高齢者制度への移行などのタイミングでそれぞれ連携する作業が発生します。
例えば、転職して加入する健保組合が変わった場合、転職先の会社が健保に手続きして、マイナンバーシステムへ連携するまでの間は、マイナ保険証は前の健保のデータが表示されます。 会社の手続きが遅れたら、怠ったら、失念したら、健康保険証が発行されるのに時間がかかっていたのと同様に、会社の手続き遅れの影響はマイナ保険証でも生じます。
さらに、転職のはざまに無職期間がある場合や、離職して任意継続を選ばなかった場合などには、居住自治体の国民健康保険に加入することとなっています。 が、これも自己申告制なので、手続きを怠ったり、忘れていたり、遅れてしまったら、紙の保険証と同様に、マイナ保険証での受診はできません(前の健保の情報が表示されます。もし受診できても後日、前の健保から「金返せ」と言われるでしょう。)
これでは困ってしまうと思うのですが、これがマイナ保険証の現状です。デジタル化と言いつつ、裏ではいまだに申告・申請ベースのアナログな仕組みで、自動的に連携する仕組みすらありません。
レガシーなシステムの実態
さらに、最近話題になっている、名前の一部が●で表示される、という問題もあります。JISで標準になっている文字とは別の異体字(コンピュータで出せない文字)を使用している場合にこの問題が発生するようです。 日本の戸籍や住民記録では、コンピュータ化される前に登録された名前で異体字が使われている場合、外字(がいじ)という仕組みを使って、異体字の字体を役所ごとに作って、異体字に対応しています。 苗字に外字が含まれている場合は、その名字を使う限り、ずっと(他の自治体に転出しても)外字が付きまとうのです。よりによって、マイナンバーカードにも「外字」が採用された結果、医療機関のPCで外字が表示されない、つまり保険証の確認ができない事態が生じています。
各種医療費公費負担制度との相性の悪さ
健康保険での医療受診における自己負担の一部または全部を、公費で負担する制度があります。 各制度に対応した「医療証」という受給者証があるのですが、これら受給者証の対象者はマイナ保険証とは別に、医療証を医療機関に出す必要があります。 しかし、これら医療証はデジタル化対象外なのです。医療費の公費負担には、下記のような方を対象に行われています。(自治体により異なるケースあり)
- 子ども医療
- 障害者医療
- 難病医療
- 被爆者医療
- 障害者自立支援制度(精神通院)
これら公費負担者は、マイナ保険証を持っていても、公的医療の医療証がアナログなので、マイナ保険証のメリットはないのです。 むしろ、デメリットはあります。たとえば、保険証入れなどの入れ物に、診察券、保険証、医療証、お薬手帳を一緒に入れておき、受診の際にはそれさえ持っていけばよいようにしている人は少なからずいるでしょう。(小さなお子さんをお持ちの方や、老人の世話をしている方・老人施設や障害者施設で利用者の受診に付き添う方など) 子どもや老人、施設同行が必要な障害児者などの保険証をマイナ保険証にしたところで、本人も支援者も、暗証番号を入れる手間が増えるだけですし、マイナ保険証の問題をクリアしたところで、公費負担の医療証が必要になることには変わりありません。 第一、施設で受診セットを預かろうにも、国が発行する「本人確認証の最たるもの」であるところのマイナンバーカードを預かるのは、施設として責任が重すぎると思います。 ましてや、お薬手帳や診察券と一緒にマイナンバーカードを預けられたら、医療機関や調剤薬局も責任を負いきらないと思います。
私事ですが、私も障害がゆえに、医療費の公費負担を受けています。医療証も持っています。マイナ保険証も持っていましたが、不便(前述のような内容)で、マイナンバーカードと保険証の紐づけを解除しました。 マイナンバーカードと運転免許証を一体化できる、と言われたところで、私にはメリットはありません。運転するときに受診セットを持ち歩くのは、あまりにもバカげているからです。
私の考える国民皆保険とデジタル化
誰しもがどこかの健保に属しているわけですから、いっそのこと国民全員にデジタル保険証を配ってしまえばよいのです。 マイナ保険証があるじゃないか、という意見もあるでしょうが、私が考えるデジタル保険証とマイナ保険証は全く異なるものです。 マイナ保険証は、カードリーダーでマイナ保険証を読み取り「その日時点で紐づいている(その日時点加入している保険とは限らない)」保険証の情報が表示されます。 マイナ保険証の誤登録(紐づけ誤り)の問題も多発しましたが、そもそもリアルタイムの保険情報ではないので、困ってしまいますね。
医療機関を受診すると、医療機関から審査支払機関を通じて健保に診療報酬明細書(レセプト情報)が流れていきます。健保は医療費を審査支払機関に支払い、審査支払機関が医療機関に医療費を支払っています。 もっと細かく言うと(と言っても、この記事を書きながら調べた範囲ですが)、健康保険組合や協会健保の場合は「社会保険診療報酬支払基金」が、国民健康保険の場合は「国保連合会(国保連)」が支払審査機関の役割を担っています。
誰しもがどこかの健保組合または国保に属しているのであれば、そしてその情報を国がマイナンバーと連動して把握しているのであれば、以下の方法がとれると考えます。
- 国は、デジタル保険証(≠マイナ保険証)を発行する
- デジタル保険証で医療機関を受診。
- (しばらくして)医療機関はデジタル保険証のデータと診療情報データをベースに、国保連にデータで一括請求
- 国保連で、国が持っている保険加入情報をベースに資格確認。受診日と資格情報(加入・離脱情報)をもとに「社会保険診療報酬支払基金」もしくは「国保連合会」にレセプトを振り分ける。
- あとは従来とおなじ
なぜ国ではなく国保連なのかというと、介護保険や障害者立支援、後期高齢者医療、医療費公費負担の事務処理も国保連を通る仕組みだからです。すでにある請求ルートを使えばそれでいいのでは、という発想です。